皆さんこんにちは。
画家のマキノロラン(呂蘭・絽蘭)です。
本記事は、水彩初心者にも学びがある画家列伝です。
特に「透明水彩で風景を描いてみたい方」に向けて書いています。
今回の主役は、ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーです。
皆さんもご存知の通り、彼は水彩画を
「下絵の技法」から「独立した芸術表現」へと押し上げ、
水彩画の歴史そのものを変えた画家です。
「ウィリアム・ターナー」と聞くと、
多くの人はロマン主義的な激しい筆致の油彩画や、
嵐の海を描いた劇的な風景画を思い浮かべるかもしれません。
しかし実はターナーは、
水彩画という表現手段を通して、
誰よりも大胆に
「光」と「空気」を探究した画家でもありました。
当時、水彩画は完成作品というよりも、
旅先での記録や油彩の下準備として扱われることが一般的でした。
当時の水彩画がどのような位置づけだったのかについては、
▶︎ 水彩画の歴史をチェック!どんな歴史を刻んできたのか真相に深掘り! で詳しく解説しています。
ところがターナーは、
水彩を単なる習作にとどめず、
にじみやぼかしを積極的に活かしながら、
風景そのものが発する光や大気の揺らぎを描き出そうとします。
輪郭は曖昧で、形は溶け、色は広がる。
一見すると「描き途中」にも見えるその水彩画は、
後の印象派や抽象表現にまで影響を与え、
水彩画の可能性を大きく押し広げました。
この記事では、
- ウィリアム・ターナーとはどんな画家だったのか
- なぜ彼は水彩画にこだわったのか
- 代表的な水彩作品から何が読み取れるのか
- 水彩初心者がどんな点を学べるのか
を、専門知識がなくても理解できるよう、やさしく整理していきます。
「うまく描こう」とする前に、
感じた光をどう置くか。
ターナーの水彩画は、
いま水彩を学び始めたばかりの人にこそ、
大きなヒントを与えてくれるはずです。
Contents
1 ウィリアム・ターナーとはどんな画家だったのか

ターナーは完成作品だけでなく、膨大なスケッチを通して自然を観察し続けた
ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner, 1775–1851)は、
18世紀末から19世紀半ばにかけて活躍したイギリスを代表する画家です。
産業革命のただ中にあった時代を生き、
風景画を中心に数多くの油彩画(550点以上)、
水彩画(2,000点)を残しました。
ターナーが生まれた18世紀後半のイギリスは、
都市化と工業化が急速に進み、
社会も自然環境も大きく変わりつつある時代でした。
彼はそうした変化の只中で、
自然の力、光の移ろい、天候の激しさを、
それまでにない自由な表現で描き続けた画家です。
当時のイギリス美術において、
風景画は「歴史画より下位」と見なされがちでした。
しかしターナーは、風景画を単なる写生や記録にとどめず、
感情や時間、空気そのものを描く表現へと押し上げました。
この姿勢は、イギリス美術の中でも極めて革新的なものでした。
またターナーは、20代前半には
王立美術院(ロイヤル・アカデミー)で高く評価されました。
一方で晩年の作品は「未完成」、
油絵においては
「変形している」「狂乱的で理解不能だ」
と批判されることもありました。
にもかかわらず、
彼の絵画は、後の印象派や抽象表現へとつながる重要な橋渡しとなり、
現在では「近代絵画の先駆者」として再評価されています。
なぜ、ターナーは今も語られ続けているのでしょうか。
それは彼が、
「何を描くか」よりも
「どのように感じ、どう表現するか」を重視し、
絵画そのものの可能性を押し広げた画家だったからです。
その姿勢は、
現代の水彩画や絵画表現を学ぶ私たちにとっても、
多くの示唆を与えてくれます。
2 ターナーと水彩画の出会い

構造と写実を重視した初期の訓練がよく分かる
ウィリアム・ターナーは、
最初から「革新的な水彩画家」だったわけではありません。
彼の出発点は、
当時のイギリスでごく一般的だった
写実的な素描と水彩による記録画でした。
18世紀末のイギリスでは、
水彩画は油彩のような「完成作品」ではなく、
建築物や風景を正確に写し取るための
実用的な技法として使われることがほとんどでした。
若きターナーもまた、
建物の外観や街並み、港の風景などを、
線描を中心に、
水彩で淡く彩色する訓練を積んでいきます。
この時代のターナーの水彩画は、
輪郭線がはっきりとし、形も構造も非常に明確です。
「にじみ」や「偶然性」は、まだ前面には出ていません。
しかし、この地道な訓練こそが、
後に水彩画の可能性を大きく広げるための土台となりました。
ターナーは、16歳から70歳まで
夏のスケッチ旅行を欠かさなかったと言われています。
その間に制作されたスケッチや水彩習作は、
正確な数は分かっていませんが、
数万点に及ぶと考えられています。
「テート・ブリテン(Tate Britain)公式コレクション」の解説を一度ご覧ください。
私はこの記事を書くために、
ここでのターナーの作品群を目にした時、
後世に名を残す人物の制作意欲は
途方もないものだと気付かされました。ターナーは、水彩を単なる下描きの道具として扱いながらも、
同時に、水と絵の具が生み出す微妙な変化――
乾き方、色の重なり、紙に染み込む感覚――に、強く惹かれていきます。
旅先で描かれた無数のスケッチや水彩習作は、
正確な記録であると同時に、
「光」や「空気」をどう捉えるかという、
彼自身の実験の場でもありました。
やがてターナーは、
水彩画を油彩の準備段階としてではなく、
それ自体が感覚や印象を伝える表現手段になり得ることに気づいていきます。
この気づきが、
後のターナーを、他の画家とはまったく異なる方向へ導いていくことになるのです。
線描を活かしながら水彩で彩色する表現に興味がある方は、
▶︎ 透明水彩×ペン淡彩|初心者向け 風景の描き方とコツ も参考になります。
3 初期のターナー|構造と写実の水彩

明確な構造と遠近法を備えた、初期ターナーの水彩作品
ターナーの初期水彩作品を見ると、
後年の抽象的ともいえる表現からは想像しにくいほど、
構造が明快で、写実性の高い描写が目立ちます。
建物は歪まず、遠近法は正確。
地面、川、空は、明確に描き分けられ、
画面全体は秩序をもって構成されています。
これはターナーが、
水彩画を「感覚の表現」よりも先に、
空間を正しく捉えるための道具として使っていたことを示しています。
当時のターナーは、
まず鉛筆やペンでしっかりと下描きを行い、
その上に水彩で淡く色をのせていく方法をとっていました。
色は控えめで、
目的は「美しくにじませること」ではなく、
形・明暗・奥行きを分かりやすく伝えることにありました。
特に注目したいのは、
初期の水彩における「明暗」の扱いです。
ターナーは、
影を感情的に描くのではなく、
光源を意識しながら、
立体を説明するための陰影として使っています。
この姿勢は、
現代の水彩初心者にも非常に重要なヒントを与えてくれます。
いきなり色彩表現に走らず、
まずは
- 形が破綻していないか
- 奥行きが感じられるか
- 光の方向が統一されているか
こうした基本構造を下描きと彩色で整理すること。
ターナーの初期作品は、
「水彩は自由に描けばいい」という言葉の前に、
「水彩でも、計画性を持てばきちんと描ける」という事実を、
静かに教えてくれます。
そして、この確かな写実力があったからこそ、
後年のターナーは、
形を溶かし、光を主役にした大胆な表現へと進むことができたのです。
透明水彩で風景を描く際の下描きや構図の考え方については、
▶︎ 透明水彩風景画の下描きプロセス|初心者でも失敗しない描き方 で詳しく解説しています。
4 ターナーが水彩にもたらした革新|光と大気の表現

輪郭を溶かし、光と大気そのものを描こうとした後年の水彩
ターナーの名が特別な存在として語られる理由は、
単に「上手に描けた」からではありません。
彼は、水彩画を
「形を説明するための技法」から、
「光や空気そのものを描く表現」へと押し広げました。
この転換こそが、
ターナーが水彩にもたらした最大の革新です。
後年のターナーの水彩を見ると、
建物や船、地形は、
はっきりとした輪郭を失い、
光の中に溶け込むように描かれています。
しかし、これは「いい加減に描いた」のではありません。
彼は、
光が強まると、形が見えにくくなること
霧や雨の中では、境界が曖昧になること
大気の状態によって、色が変化すること
こうした自然現象を観察した結果として、
あえて形を崩しているのです。
水彩という画材は、
にじみ、ぼかし、偶然性を含んだ表現が魅力です。
ターナーは、
この水彩の性質を「欠点」ではなく、
自然を描くための武器として使いました。
例えば、
- ウェット・オン・ウェットによる柔らかなにじみ
- 色を重ねすぎず、紙の白を光として残す方法
- 筆跡を完全に消さず、揺らぎとして残す重色の描写
- 一度乗せた絵の具を洗い落とすぼかしの効果
これらはすべて、
光が空間に満ちている感覚を表すための工夫です。
特に重要なのは、
ターナーが「主役」を形ではなく、
光そのものに置いた点です。
画面の中で最も伝えたいのは、
建物の正確さでも、船の形でもなく、
その場に満ちる
朝の光、夕暮れの輝き、嵐の前の不安な空気。
そのために、
形は省略され、
色は溶け合い、
輪郭は曖昧になります。
これは、
基礎を知らない人には真似できない表現です。
前章で見たように、
ターナーは、
正確な構造と写実を徹底的に身につけた上で、
それを手放しました。
だからこそ、
崩れているように見えても、
画面は破綻せず、
強い説得力を持ち続けているのです。
5 ターナーの水彩から学ぶこと|初心者への具体的ヒント

場の臨場感を感覚的に追求し、紙の白を活かし余白の美を表現している
ターナーの水彩画は、
「すごい」「真似できない」で終わらせてしまうと、
それ以上の価値を失ってしまいます。
しかし視点を変えると、
彼の絵には、
水彩初心者にとって非常に重要なヒントが数多く隠れています。
ここでは、
「ターナーのように描く」ではなく、
「ターナーの考え方をどう取り入れるか」
という観点で整理してみたいと思います。
① 最初から描き込まない勇気を持つ
ターナーの水彩をよく見ると、
最初から細部を描き込んでいません。
むしろ、
- 大きな光の流れ
- 画面全体の明るさ
- 空気の雰囲気
こうした全体の印象を、
先に紙の上に置いています。
水彩初心者ほど「うまく描こう」として
最初から「輪郭や細部」に入りがちです。
しかしターナーは逆で、
細部は後回し、
あるいは、あえて描かないことさえあります。
② にじみ・偶然を敵にしない
水彩画で多くの人が悩むのが、
「思った通りにならないにじみ」です。
しかしターナーは、
にじみや色の流れを
自然現象そのものとして扱いました。
雲が流れる
霧が立ちこめる
雨で視界がぼやける
そうした状態を描くなら、
筆跡や色のコントロールが
完全である必要はありません。
ターナーの水彩では、
にじみや色の流れそのものが表現の一部になっています。
水彩の「にじみ」「重ね塗り」「白の残し方」について基礎から知りたい方は、
▶︎ 水彩画の技法28種類まとめ|初心者から上達まで使える基本・応用テクニック集 も参考になります。
③ 紙の白を「光」として残す
ターナーの水彩では、
白い絵の具で光を描くことはほとんどありません。
紙の白そのものが、光です。
これは、
水彩画において最も重要で、
同時に最も難しい考え方です。
描きすぎると光は消え、
残せば残すほど、画面は輝きます。
④ 形が多少崩れても、絵は成立する
ターナーの後期作品では、
建物や船は、
かなり曖昧な形で描かれています。
それでも絵が成立するのは、
- 明暗の流れ(適切な明度差)
- 色の関係(適切な配色)
- 視線の誘導(適切な構図)
といった絵画としての骨組みが、
しっかりしているからです。
初心者が学ぶべきなのは、
「正確な形」よりも、
画面全体の関係性です。
⑤ 基礎を学ぶ意味が、ここにある
最後に、とても大切なことです。
ターナーは、
最初から自由に描いていた画家ではありません。
若い頃は、
建築、遠近法、写実的な描写を
徹底的に学んでいます。
だからこそ、
後年、形を崩しても
絵は崩れなかったのです。
これは、
水彩初心者にとって
これからの勉強次第で自分も成長できる!
そう言った大きな励ましになりますね。
ターナーの絵が形を崩しても成立している理由は、
明暗や構図といった
「絵の骨組み」を強く意識していたからなのです。




私が透明水彩の魅力にハマり、
勉強を始めた時に心掛けたのは、
「最低でも1日10分は筆を持つ!」と言うことでした。
それを守った時期は、
自分でも腕が上がってきて、自信がついてきました。
嘘のような本当の話ですので、
皆さんもぜひ毎日10分は筆を取るように心がけてみてください。
6 ターナーは「上手く描く」より「感じる」画家だった

険しい道を越えてのスケッチ旅行だからこそ、感無量の景色との出会いがターナーの創作意欲を掻き立て続けたのかなと思います。
ターナーの水彩画は、
技術を誇示するための絵ではありません。
その場に満ちる
光、空気、そして時間の流れ。
それらを、
水彩という不確かな画材で
どう受け止め、どう紙の上に置くか。
ターナーは、
「正確に描くこと」よりも先に、
「感じたものを信じること」を選んだ画家でした。
だからこそ彼の水彩画は、
時代を越え、
いま水彩を学び始めた私たちにも、
静かに、しかし確かな示唆を与え続けているのです。

雨×蒸気×速度、この掛け合わせにターナーは何を感じ何を表現しようとしているのか?

1843年6月の嵐の夜の翌朝、彼女は2人の年配の紳士と一緒に、グレートウェスタン鉄道のファーストクラスの車両に乗っていました。
そのうちの1人(おそらくターナー)は、彼らがブリストルに到着したときに、まだあれ狂っていた嵐に強い関心を持っていました。
そこで10分間の停留所の間に、彼は彼女に窓を下ろす許可を求めました。
そして、雨に濡れたにもかかわらず「ほぼ9分間」窓から身を乗り出していました。
列車が進むと、彼は10分間、目を閉じて後ろに傾いていました。
彼女がこの男性をターナーだと気づいたのは、次のロイヤルアカデミーの展覧会で「レイン、スチーム、スピード」を見た時だった…と言うターナー伝説があります。
体で、雨と風とスピードを感じ、それを絵にしていくと言うこのキテレツな行動こそが、ターナーの素晴らしさと言えると思います。
※翻訳に自信がないので、多少意味の取り違えがあるかもしれませんのであしからず、ご了承ください。
7 ターナーの描いた油絵(油彩画)を比較する


まだ若い頃のターナーが難破船を描いた油絵。この主題を表現するために工夫しているところはどこか?

岬の間のボートとの日の出を描いている油絵

大洪水の夜の闇にターナーは、どんな思いを巡らし、この絵を描いたのだろうか?
「参考文献」
- テート・ブリテン(Tate Britain)公式コレクション解説
- Royal Academy of Arts 所蔵・展示資料
- 19世紀イギリス風景画史に関する一般的美術史資料

その他にも、アクリル画や油彩画、漫画、イラスト、切り絵、デッサンなど、美術全般の指導書としてもやさしくていねいに学べるHPですぴー。
ぜひ別の記事でも楽しく学んでいただければと思いますぴー。














